「日本は本当に競争力がなくなったのか」という論文を本誌に寄せたのは、2002年3月号である。IMD発表のランキングで26位に位置していたわが国の未来を論じたものだったが、そのときの考察では、ランキングの足を引っ張るものとして、IT分野の普及度やネット接続料金への過小評価とともに、「教育水準」を掲げた。
さて当時、国内で何が行われていたかといえば、文部科学省や経済産業省が、日本のモノづくりの高度化、高付加価値化を目指し、新たな大学院設立を後押していた。それが、技術経営大学院(MOT)と呼ばれるものである。
直感的に言えば、MBAが文科系の社会人教育を主体にしているとすれば、MOTは理科系のための社会人教育と言えよう(もちろん、一概に分けられるものではない)。2004年〜2005年にはディグリー、ノンディグリーを合わせて90近いMOTプログラムが国内に誕生している。
国内で技術経営大学院が、いささか慌しく誕生し、卒業生を輩出するなか、実はアメリカでも、2005年から「PSM(プロフェッショナル・サイエンス・マスター=科学技術系経営学修士)」なる大学院がスタートしており、いわば、日米同時に同じ教育体系が揃い、それぞれの世界でのイニシアチブの維持、さらなる飛躍に向けた闘いを始めたといってもよい。
安倍政権でのイノベーション政策
折しも、安倍政権の政策課題の目玉として、MOTが標榜する「イノベーション」が注目されている。
安倍政権は、教育改革、安全保障とならび、イノベーションによる産業活性化を掲げており、その中身は2007年2月ごろに中間報告の形で発表される。そのヒントは、経済産業省が2006年6月に発表した「新経済成長戦略」にありそうだ。
同戦略によれば、2025年の日本のあるべき姿、超高齢社会での日本の繁栄のためには、主力産業である「自動車」「家電」とともに、新たな産業群として「燃料電池」「情報家電」「ロボット」「コンテンツ」などが牽引力となる必要がある。自動車産業と家電産業は、かつてはその裾野も含め、合計109兆円(それぞれ43兆円と66兆円)の市場規模があったものの、失われた10年で縮小している。それを補うために、上記新規産業群による新たな市場を模索し、2010年には38兆円、2025年には72兆円を創造することが求められるというものだ。
そのための横断的な施策として、ヒト(人財力)のイノベーションが掲げられ、「教育・人材育成システム」として、「社会人基礎力の養成に向けた実践型教育の推進」がうたわれている。
読み換えれば、これがMOT大学院とMBA大学院への期待であるといえる。
2007年版MOT&MBAランキング
いささかイントロが長くなったが、本題の、国内MOTのランキング評価に話を移したい。
筆者ら国際戦略デザイン研究所が実施する同ランキングは、2年目の今年、「MOT&MBA Ratings」(http://www.isd-r.com/mot/)と名称を変更した。MOT大学院が出揃い、それぞれが切磋琢磨するなかで、MBA大学院も評価対象に加え、ベンチマークとすることにしたのである。
評価大学院・プログラム数は200近くになったが、同じ大学の中で複数存在する類似プログラムなどを整理整頓し、MOTが71、MBAが70、全部で133プログラムを対象とした(双方にまたがるものがあるため、合計では133となる)。
MBA大学院を加えた第一の理由は、MOT大学院の実力を見るためだが、実はそれだけではない。MBA大学院にも、イノベーションの波(すなわち、「変わらなきゃ」)が迫っているのである。
既に、MOTとMBAのいずれかのディグリーを取れるMBAコースが出現している。その評価はおおむね高く、筆者らの実施するランキングでも上位につけている (もっとも、本ランキングは、上位になるための競争を促すものではなく、国内MOT大学院とMBA大学院のレベルアップを図るものであり、学生や派遣元の企業にとっては、自身、自社に合った特徴ある大学院を探すきっかけになることを目的としている)。
|